「『うちは小さい会社だから大丈夫』と思っていませんか?」
「セキュリティ対策と言われても、何から手をつければいいか分からないし、費用もかけられない…」
中小企業の経営者やシステム担当者の方であれば、このような悩みを抱えている方も少なくないでしょう。
しかし、その考えは非常に危険です。警察庁の報告によると、2025年上半期に国内で発生したランサムウェア被害116件のうち、実に約66%が中小企業でした。
もはや、ランサムウェアは中小企業をこそ主な標的としているのです。(出典: 警察庁)
ご安心ください。この記事を読めば、限られた予算と人材の中で、あなたの会社が今すぐ実施すべき、最も費用対効果の高い中小企業向けのランサムウェア対策が分かります。
無料でできる基本的な設定から、月額数千円で始められる最新のセキュリティサービス、さらには国や自治体の補助金を活用する方法まで、具体的なコスト感と優先順位をつけて解説します。
IPA(情報処理推進機構)の公式ガイドラインや、実際に対策を導入した中小企業の事例に基づき、専門家が分かりやすく解説しますので、ぜひ自社のセキュリティ体制を見直すきっかけにしてください。
この記事でわかること
- なぜ今、中小企業がランサムウェアの主な標的なのか
- 予算がなくても「今すぐ無料」で始められる対策3選
- 月額数千円から始める、費用対効果の高いセキュリティ投資
- 返済不要!IT導入補助金など、国や自治体の支援制度の活用法
※この記事では「中小企業向けのランサムウェア対策」に特化して解説します。そもそも「ランサムウェアとは何か」という全体像を正確に把握したい方は、まずはこちらの総合解説記事をご覧ください。
→ ランサムウェアとは?感染経路・事例・対策をわかりやすく解説【2025年最新ガイド】

なぜ?中小企業がランサムウェア対策で狙われる3つの理由
ここでは、なぜ今、中小企業がランサムウェア攻撃の主なターゲットになっているのか、その3つの理由を解説します。この事実を知ることで、「自分たちは標的である」という当事者意識を持つことが、対策の第一歩となります。
理由1:セキュリティが手薄で「侵入しやすい」から
多くの中小企業では、「専任のIT担当者がいない」「セキュリティにまで予算が回らない」のが実情です。
IPAの調査でも、約60%の中小企業が「十分な対策を実施できていない」と回答しています。攻撃者から見れば、これは「防御が甘く、侵入しやすいターゲット」そのもの。最小の労力で最大の成果を狙う攻撃者にとって、中小企業は格好の標的なのです。(出典: IPA)
理由2:大企業への攻撃の「足がかり」にされるから(サプライチェーン攻撃)
あなたの会社が、大手企業と取引をしていませんか?
攻撃者は、セキュリティの強固な大企業へ直接侵入する代わりに、その取引先である中小企業をまず乗っ取り、そこを踏み台にして本丸である大企業へ侵入しようとします。これを「サプライチェーン攻撃」と呼びます。
自社に重要な情報がなくても、取引先への「足がかり」として狙われる可能性があるのです。
あわせて読みたい:中小企業が狙われた具体的な事例
中小企業がランサムウェアの主な標的となっていることは、多くの被害事例が示しています。実際にどのような企業が、どのような手口で狙われたのか、具体的な事例についてはこちらの記事で詳しく解説しています。
→ 【2025年最新】ランサムウェア被害事例10選|アスクル等に学ぶ原因と対策

理由3:事業停止への耐性が低く「身代金を払う」と思われているから
ランサムウェアに感染し、PCやサーバーが使えなくなると、業務は完全にストップします。
大企業に比べて体力のない中小企業は、長期間の事業停止に耐えられません。攻撃者はその弱みにつけこみ、「中小企業なら、事業を再開するために身代金を支払うだろう」と考え、攻撃を仕掛けてくるのです。ただし、警察庁やIPAは身代金の支払いを厳しく非推奨としています。
【コストゼロ】お金をかけずに今すぐできるランサムウェア対策
ここでは、専門知識や予算がなくても、今日からすぐに実践できる無料の対策を3つ紹介します。まずはここから始めるだけでも、防御力は大きく向上します。
対策1:Windows標準機能「ランサムウェア保護」を有効にする
実は、Windowsには標準でランサムウェア対策機能が搭載されています。簡単な設定で、重要なフォルダをランサムウェアの魔の手から守ることができます。
【設定手順】
- 「設定」→「プライバシーとセキュリティ」→「Windows セキュリティ」を開く
- 「ウイルスと脅威の防止」→「ランサムウェア防止」の管理 をクリック
- 「コントロールされたフォルダーアクセス」をオンにする
これにより、許可されていないプログラムが重要なファイルへアクセスするのを防ぎます。
対策2:従業員のための「セキュリティルール5か条」を作成・周知する
技術的な対策と同じくらい重要なのが、従業員一人ひとりのセキュリティ意識です。以下の5か条のような簡単なルールを作成し、社内に掲示・周知するだけでも効果があります。
【セキュリティルール5か条(例)】
- 開かない: 身に覚えのないメール、怪しい添付ファイルは絶対に開かない。
- 使い回さない: パスワードはサービスごとに変え、使い回しは絶対にしない。
- すぐ更新: PCやソフトの更新通知が来たら、すぐにアップデートする。
- 勝手に繋がない: 提供元不明のUSBメモリやフリーWi-Fiは安易に利用しない。
- すぐ報告: 少しでも「おかしい」と感じたら、すぐに上長や担当者に報告する。
対策3:ルーターの設定を見直し、不要な侵入口を塞ぐ
オフィスのインターネットの入口であるルーターも、設定が甘いと侵入経路になります。
専門家でなくても、これらの設定は比較的簡単に行えます。まずは、お使いのルーターの取扱説明書を確認してみましょう。
月額数千円からの投資!費用対効果で選ぶランサムウェア対策
無料の対策にプラスして、月々わずかな投資でセキュリティを大幅に強化できるサービスがあります。ここでは、中小企業におすすめの3つの対策を紹介します。
対策4:PCの異常を検知・隔離する「EDR」
EDR(Endpoint Detection and Response)は、PCやサーバーの動きを常時監視し、ランサムウェアのような不審な挙動を検知すると、自動的にネットワークから隔離してくれる仕組みです。
従来のウイルス対策ソフトが「ウイルスの特徴(指名手配書)」を基に判断するのに対し、EDRは「怪しい動き(挙動不審者)」を捉えるため、未知の攻撃にも対応できます。
【費用感】: 月額500円〜1,500円/1台あたり(出典: offisuke)
対策5:社内ネットワークの入口を守る「UTM」
UTM(Unified Threat Management)は、ファイアウォールやウイルス対策、不正侵入防御など、複数のセキュリティ機能を一つにまとめた機器です。
これをオフィスのネットワークの入口に設置することで、外部からの脅威をまとめてブロックできます。専任の担当者がいなくても、効率的にネットワーク全体を守れるのがメリットです。
【費用感】: 月額1万円〜4万円程度(機器のリース・保守料込み)(出典: catalog.monex)
対策6:安全なバックアップ体制を構築する(3-2-1ルール)
ランサムウェア対策の最後の砦は、やはりバックアップです。しかし、ただバックアップを取るだけでは不十分。PCやサーバーと常に接続されたバックアップは、本体と一緒に暗号化されてしまうからです。
「3-2-1ルール」を徹底しましょう。
このルールを守ることで、あらゆる事態に対応できる復旧体制が整います。
【比較表】EDR・UTM・バックアップ、結局どれから始めるべき?
対策 | 守る場所 | 得意なこと | 優先度 |
---|---|---|---|
バックアップ | データ | 感染後の復旧 | ★★★ |
UTM | ネットワークの入口 | 外部からの侵入防止 | ★★☆ |
EDR | PC・サーバー | 内部での不審な動きの検知 | ★★☆ |
結論として、まずは「バックアップ」体制の確立が最優先です。 その上で、ネットワークの入口を固める「UTM」か、PC個々の監視を強める「EDR」を、予算に応じて導入するのがおすすめです。
返済不要!国の補助金・支援サービスを賢く使うランサムウェア対策
「有料の対策が必要なのは分かったが、やはりコストが…」という経営者のために、国や自治体が提供している返済不要の支援制度があります。これらを使わない手はありません。
対策7:IT導入補助金(セキュリティ対策推進枠)を活用する
中小企業庁が実施している「IT導入補助金」には、サイバーセキュリティ対策に特化した枠があります。
EDRやUTMといったセキュリティツールの導入費用の最大1/2〜2/3(上限150万円)が補助されます。補助率は事業者の規模によって異なり、多くのITベンダーが申請サポートも行っているため、積極的に活用しましょう。(出典: carearc)
対策8:専門家が伴走支援する「サイバーセキュリティお助け隊サービス」
IPA(情報処理推進機構)が推進する、中小企業向けの総合的なセキュリティ支援サービスです。
専門家による相談、ネットワークの監視、緊急時の対応支援などを、年間4〜8万円前後という手頃な価格で受けることができます。このサービスもIT導入補助金の対象です。実際にこのサービスと補助金を活用し、月数万円の負担でUTMを導入した徳島県の製造業の事例も報告されています。(出典: IPA)
対策9:東京都など、地方自治体の助成金制度を調べる
国だけでなく、都道府県や市区町村が独自にセキュリティ対策の助成金制度を設けている場合があります。
例えば、東京都では、専門家による診断や機器の導入費用を最大100万円(補助率2/3)まで助成する事業を行っています。自社の所在地にある自治体のホームページなどを確認してみましょう。(出典: 東京都)
ツールだけでは不十分!組織で取り組むべき最後のランサムウェア対策
最新のツールや補助金を活用しても、それだけでは万全ではありません。最後に、組織全体で取り組むべき対策を紹介します。
対策10:インシデント発生時の対応計画を定める
もし感染してしまった場合に、誰が、誰に報告し、どのように対応するのか。この「インシデント対応計画」を事前に文書化しておくだけで、パニックに陥るのを防ぎ、被害を最小限に抑えることができます。
定期的な従業員教育と標的型メール訓練を実施する
セキュリティ対策の最終的な砦は「人」です。定期的に研修会を開いたり、擬似的な攻撃メールを送って対応力を試す「標的型メール訓練」を実施したりすることで、組織全体のセキュリティ意識を高めることが不可欠です。
中小企業のランサムウェア対策に関するよくある質問
- QQ1: セキュリティ担当者が社内にいなくても、対策は可能ですか?
- A
A1: 可能です。現在では、専門家が24時間監視してくれるMDRサービスや、設定が簡単なクラウド型のセキュリティ製品が充実しており、IT担当者がいない企業でも導入・運用しやすくなっています。
- QQ2: 補助金の申請は難しいのでしょうか?
- A
A2: IT導入補助金などは、申請をサポートしてくれるITベンダー(支援事業者)と協力して進めるのが一般的です。専門家の助けを借りることで、申請のハードルは大きく下がります。
- QQ3: 結局、一番費用対効果が高い対策は何ですか?
- A
A3: まずは「バックアップの徹底」と「OS等のアップデート」です。これらは低コストで実現でき、多くの攻撃を防ぐ基本となります。その上で、EDRやUTMといった検知・防御の仕組みを導入するのが王道です。
- QQ4: サイバー保険には入っておくべきですか?
- A
A4: 対策を尽くしても100%は防げないため、万が一の際の損害(調査費用、復旧費用、賠償など)をカバーするサイバー保険の検討は非常に有効です。ただし、保険の加入には一定のセキュリティ水準が求められる場合があります。
まとめ:中小企業こそ、身の丈に合ったランサムウェア対策から始めよう
本記事では、中小企業が今すぐ取り組むべきランサムウェア対策を、具体的な費用感や公的支援制度と合わせて解説しました。
本記事で紹介した対策10選のポイント
- 無料対策: Windows標準機能の活用、社内ルールの策定、ルーター設定の見直しから始める。
- 有料対策: EDR、UTM、安全なバックアップ体制を、費用対効果で検討する。
- 公的支援: IT導入補助金やお助け隊サービスを賢く活用し、コスト負担を軽減する。
- 組織対策: インシデント対応計画の策定と、継続的な従業員教育が不可欠である。
「予算がないから」「人がいないから」と諦める必要はありません。無料の対策からでも、始めないことには防御力はゼロのままです。この記事を参考に、自社の身の丈に合った対策の第一歩を踏み出しましょう。
▼次のステップ:もし感染してしまったら?
どんなに強固な対策を講じても、100%の防御は不可能です。万が一、ランサムウェアに感染してしまった場合の正しい対応手順については、こちらの記事で詳しく解説しています。
→ ランサムウェアに感染したら?絶対やってはいけない事と正しい対応手順

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