
「金価格のニュースで『円安』や『米金利』という言葉をよく聞くけど、正直、なぜそれが価格に関係するのかピンとこない…」
そんな風に感じたことはありませんか?

この記事を読めば、金相場がどうやって決まるのか、その根本的な仕組みが、まるでパズルが解けるように理解できます。「アメリカの金利が上がると、金の価格が下がる」その理由を、あなたは10秒で説明できるようになるでしょう。
需要と供給の基本から、地政学リスク、プロが見ている「ロンドン金価格」の仕組みまで、図解を多用しながら分かりやすく解説。この記事を読み終える頃には、日々の経済ニュースの裏側が読み解け、世界がもっと面白く見えてくるはずです。
この記事でわかること
- 金価格が決まる「基本の計算式」
- なぜ「アメリカの金利」が最重要なのか
- 「円安」が日本の金価格を押し上げる理由
- 株価や世界情勢(地政学リスク)との関係性
- プロが毎日見ている「ロンドン金価格」の仕組み
※この記事では「金相場の価格決定メカニズム」に特化して解説します。そもそも「金相場の今後の見通し」の全体像を正確に把握したい方は、まずはこちらの総合解説記事をご覧ください。
→ 金相場はこれからどうなる?長期予測と今後の見通しを徹底解説

まずは結論から!日本の金価格が決まるたった1つの計算式
このパートでは、この記事の最も重要な結論として、日本国内の金価格がどう決まるのか、その基本メカニズムを解説します。このシンプルな計算式を理解するだけで、ニュースの読み解き方が大きく変わります。
国際的な「ドル建て価格」が基本
まず知っておきたいのは、金の価格は、世界的には「米ドル」を基準に取引されているという事実です。
ニュースで「金価格が史上最高値」と報じられる時、それは通常、ロンドン市場などで取引される「1トロイオンスあたりのドル建て価格」を指しています。これが、世界中の金取引の指標となっています。
【用語解説】トロイオンス
貴金属や宝石の質量に使われる単位のことです。1トロイオンスは、約31.1035グラムに相当します。
日本では「ドル円為替レート」を掛け合わせて決まる
では、日本の金価格はどう決まるのでしょうか。答えはシンプルで、上記の「ドル建て国際価格」に、その時々の「ドル円為替レート」を掛け合わせることで、円建ての価格が算出されます。
つまり、日本の金価格は、国際的な金の価値と、為替という2つの要因で常に変動しているのです。
【図解】国際価格と為替レートの関係性
この関係は、以下のようなシーソーをイメージすると分かりやすいでしょう。
- 国際価格(ドル建て)が上がる → 日本の価格も上がる
- 為替が円安になる(ドルの価値が上がる) → 日本の価格も上がる

逆に、どちらか一方、あるいは両方が下がれば、日本の金価格も下がります。この2つのエンジンで動いているのが、日本の金相場なのです。

つまり、海外の金の価値が上がらなくても、円安になるだけで日本の金価格は上がる。この2つのエンジンで動いているのがポイントです。
SNSの体験談でも「円安で海外旅行を諦めて金を売った」という声がありましたが、まさに為替が私たちの資産価値に直接影響を与えている実例と言えます。
【要因①】なぜアメリカの「金利」が上がると金の価格は下がるのか?
5つの要因の中で最も重要で、多くの方が疑問に思うのが「金利」との関係です。ここでは、その理由を丁寧に解説します。
銀行預金と金を天秤にかける投資家たち
世界中の投資家は、常に「どの資産を持てば、最も効率よくお金を増やせるか」を考えています。
ここで天秤にかけられるのが、「金利が付く資産(銀行預金や国債など)」と「金利が付かない資産(金など)」です。
理由:金は「利息を生まない」のが最大の弱点
アメリカの金利が上がると、ドルで預金したり、米国の国債を買ったりするだけで、高い利息収入が期待できます。
一方で、金は保有しているだけでは一切利息や配当を生みません。そのため、金利が上がる局面では、投資家は金を売って、より魅力的な金利が付くドル資産に資金を移そうとします。その結果、金の価格は下落しやすくなるのです。
過去のデータで見る金利と金価格のシーソーゲーム(逆相関)
この関係は過去のデータにも表れています。
過去10年間のデータを見ると、米国の政策金利が1%上昇した後の3ヶ月間では、金価格は平均して約2.1%下落しています。逆に、金利が1%下落した局面では、金価格は平均して約5.2%上昇しており、明確な「逆相関(シーソーのような関係)」が見られます。(出典: SBI証券)
【要因②】なぜ「円安」になると日本の金価格は上がるのか?
次に、日本の投資家にとって最も身近な「為替」の影響です。この仕組みは、海外旅行や輸入品の価格をイメージすると、とても分かりやすくなります。
海外のブランド品が円安で値上がりするのと同じ理屈
例えば、1,000ドルのブランドバッグを買うとします。
このように、海外でドルで売られている商品の値段が変わらなくても、円安・ドル高になるだけで、日本円での支払額は高くなります。
金の価格もこれと全く同じで、国際価格が同じでも、円安になるだけで円建ての金価格は自動的に上昇するのです。
【図解】1ドル100円の時と150円の時の円建て金価格シミュレーション
仮に、金の国際価格が「1トロイオンスあたり2,000ドル」で一定だったとしましょう。
このように、為替が円安になるだけで、1グラムあたりの価格が3,000円以上も上昇することが分かります。

近年の金価格高騰の半分は「円安」が理由
2022年以降、日本の金価格が歴史的な高値を更新し続けている背景には、国際価格の上昇に加えて、この記録的な円安が大きく影響しています。
国際価格と円安、2つの上昇要因が重なったことで、これまでにないほどの高騰が生まれているのです。(出典: KINKAIMASU)

SNSで「円安で海外旅行を諦めて金を売った」という体験談がありましたが、これは為替が私たちの資産価値に直接影響を与える好例です。
円の価値が下がる局面では、相対的に金の価値(円建て)が上がる。このシーソー関係を理解すると、ニュースの見方が変わってきます。
【要因③】「株価」と金価格の複雑な関係|逆相関と順相関
続いて、株価と金価格の関係です。一般的には「逆の動きをする」と言われますが、近年は少し複雑な様相を呈しています。
基本は「逆相関」:経済不安で株を売り、安全な金を買う動き
伝統的に、株価と金価格は「逆相関」の関係にあるとされてきました。
経済危機や金融不安が起きると、投資家は値下がりリスクのある株式を売り、より安全な資産である金に資金を移します。このため、株価が下がると金価格は上がる、という動きが基本となります。
例外の「順相関」:大規模な金融緩和で市場のお金が余ると、株も金も買われる
しかし、2020年のコロナショック後など、株価と金価格が同時に上昇する「順相関」の現象も見られます。
これは、世界各国の中央銀行が景気対策として大規模な金融緩和を行い、市場に大量のお金(過剰流動性)を供給したことが背景にあります。
この余ったお金が、リスク資産である株式と、安全資産である金の両方に流れ込んだため、両方の価格が同時に押し上げられたのです。(出典: ロイター)
あなたはどちらの局面を意識すべきか
普段は「株価が下がれば金は上がる」という逆相関を基本としつつも、世界的な金融緩和のニュースが出た際には「株も金も上がる特殊な相場かもしれない」という、両方の視点を持つことが重要です。
【要因④】「需要と供給」はどう影響する?中央銀行の存在感
ポイントは、金の価格も他のあらゆる商品と同じく、最終的には「買いたい人(需要)」と「売りたい人(供給)」のバランスで決まるという点です。ここでは、その内訳と、近年の大きな変化を見ていきましょう。
金の4大需要:宝飾品、産業用、投資、そして中央銀行
金の需要は、大きく分けて以下の4つです。
近年、金の価格を押し上げているのは「中央銀行の買い」
WGC(ワールド・ゴールド・カウンシル)の最新データによると、近年、宝飾品需要は価格高騰で伸び悩む一方、世界の中央銀行による金の購入が記録的な水準で続いています。(出典: World Gold Council)
特に、米ドルへの依存を減らしたい中国やロシア、トルコといった国々が積極的に金を買い増しており、これが世界的な需要を下支えし、価格を押し上げる大きな力となっています。
ただし、この中央銀行の買い付け動向は、各国の経済・金融・政治情勢によって大きく変動する可能性も秘めています。
中国・トルコなど、金を買い集める国々の狙い
2025年のデータでは、世界の総需要約4,974トンのうち、中央銀行の購入が17%を占めています。
これは、自国の資産を特定の通貨(特に米ドル)だけに依存するリスクを避け、普遍的な価値を持つ金で資産を多様化させたいという、各国の戦略的な動きの表れです。

個人の売買だけでなく、国単位の大きな動きが価格の底流を作っている、というマクロな視点を持つと、金相場の大きなトレンドがより理解しやすくなります。
【要因⑤】ニュースでよく聞く「地政学リスク」とは何か
最後に、ニュースで頻繁に登場する「地政学リスク」と金の関係です。「有事の金」という言葉の背景には、何があるのでしょうか。
「有事の金」と呼ばれる本当の理由
戦争や紛争、大規模なテロ、金融危機といった「有事」が発生すると、人々は株式や不動産、さらにはその国の通貨さえも信用できなくなることがあります。
そんな時、価値がゼロになるリスクが極めて低く、世界中で通用する金に、資金の逃避先として需要が集中します。これが「有事の金」と呼ばれる理由です。
過去の事例:ウクライナ侵攻で金価格はどう動いたか
記憶に新しい2022年2月のロシアによるウクライナ侵攻の際も、この「有事の金」の動きが顕著に見られました。
侵攻開始の前後1ヶ月で、金価格は一時的に9%以上も急騰しました。これは、世界の投資家が、先行き不透明な状況下で、資産を守るために一斉に金を購入した結果です。(出典: 野村證券)
地政学リスクは「保険」としての金の価値を高める
平時においては、金利を生まない金は魅力的でないかもしれません。
しかし、このような不確実な時代において、地政学リスクは、万が一の事態に備える「保険」としての金の価値を、改めて浮き彫りにしていると言えるでしょう。
金相場の仕組みに関する”よくある質問”
ここでは、金相場の仕組みについて、多くの人が抱くさらに一歩踏み込んだ疑問に、Q&A形式でお答えします。
- QQ1: なぜロンドン市場の価格が世界の基準になるのですか?
- A
A1: 歴史的にロンドンが世界の金取引の中心地であり、現在もLBMA(ロンドン貴金属市場協会)が1日2回、オークション形式で価格を決定しているためです。
この価格決定プロセスは、複数の大手銀行や地金業者が参加し、需要と供給のバランスに基づいて合意形成されることで、国際的な指標としての信頼性を保っています。(出典: JOGMEC)
- QQ2: 金価格が「投機筋に操作されている」という話は本当ですか?
- A
A2: 市場の公式見解としては、価格決定プロセスの透明性を確保することで意図的な操作は困難であるとされています。しかし、短期的な価格形成にヘッジファンドなどの大口投資家の動向が影響を与えることは事実です。(出典: SMBC日興証券)
- QQ3: インドや中国で金が買われると、日本の価格にも影響しますか?
- A
A3: はい、影響します。インドや中国は宝飾品需要の世界的な二大市場であり、これらの国々の需要が増えれば国際的な金価格が上昇し、結果として日本の円建て価格も上がる要因になります。
まとめ:5つの要因を理解して、経済ニュースの裏側を読み解こう
本記事では、金相場がどのように決まるのか、その背景にある5つの主要な要因を解説しました。最後に、要点を振り返りましょう。
本記事の重要ポイント(箇条書き)
- 日本の金価格は「国際ドル建て価格 × ドル円為替レート」で決まる。
- 米国の金利が上がると金価格は下がり、金利が下がると上がりやすい。
- 円安は、日本の金価格を押し上げる大きな要因になる。
- 株価とは逆の動きをすることが多いが、金融緩和時には同時に上がることもある。
- 中央銀行の買いや地政学リスクも、価格を動かす重要な力となっている。
金価格の仕組みを知ることは、世界経済を知ること
ここまで読んでいただいたあなたは、もはや日々の経済ニュースをただ眺めるだけではありません。
「米国の利下げ観測で、金が買われているな」「円安だから、国内の金価格は高止まりしそうだ」といったように、ニュースの裏側にある意味を自分なりに読み解くことができるようになっているはずです。
次のステップ:過去の価格変動から未来を予測する
価格決定の「仕組み」を理解した次は、その仕組みが過去の歴史の中でどのように機能してきたのかを学ぶことが、未来を予測する上で非常に重要です。
▼次のステップ:過去の価格推移を学ぶ
金価格を動かす要因を理解した次は、それらの要因が過去にどのような影響を与えてきたのかを長期チャートで確認してみましょう。歴史から学ぶことで、今後の価格変動への洞察がさらに深まります。
→ 金の長期チャートから何がわかる?過去50年の推移と今後の判断材料



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